03相続開始前に父と私の間に
贈与契約がありましたが、
相続税の債務控除はできますか?
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父は生前、私に1,000万円の預金を贈与するという約束をし、贈与契約書を交わしました。父はその後急死し相続が開始しました。私は1,000万円の預金を相続すると同時に、生前の贈与契約に基づいて父の預金を名義変更して自分名義の預金にしました。 |
父は生前、私に1,000万円の預金を贈与するという約束をし、贈与契約書を交わしました。父はその後急死し相続を開始しました。私は1,000万円の預金を相続すると同時に、生前の贈与契約に基づいて父の預金を名義変更して自分名義の預金にしました。
この場合、相続開始時点で父が私に対して負っていた1,000万円の債務について、相続税の債務控除はできるのでしょうか。
この場合、
相続税の債務控除ができます。
お父様からの贈与ということで、自分に対する債務を相続するという分かりにくい状況かと思いますが、今回のように受贈者が相続人であっても債務控除の対象になります。 |
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お父様からの贈与ということで、自分に対する債務を相続するという分かりにくい状況かと思いますが、今回のように受贈者が相続人であっても債務控除の対象になります。
こういった場合について、下記で解説いたします。
ステップ1 贈与契約と債務控除
相続税の課税価格は、相続又は遺贈により取得した財産の価額から、被相続人の債務及び葬式費用を控除して純資産価額を算定し、これに被相続人から相続開始前3年以内に贈与により取得した財産の価額を加算して計算します。
債務控除の対象になるものは、租税公課をはじめ種々ありますが、贈与を履行する前に被相続人について相続が開始した場合の贈与の履行の義務も含まれます(相法第13条②四)。受贈者が相続人であっても債務控除の対象になることに変わりはありません。
ステップ2 確実な債務
債務控除の対象となる被相続人の債務は、確実と認められるものに限られます(相法第14条①)。
ところで、質問では相続開始時点では贈与契約はなされていたものの贈与自体は履行されていませんが、書面による契約書があることから、相続開始時点において確実な債務が存在していると考えられます。
ステップ3 贈与財産の加算
贈与財産の取得時期は、書面によるものについてはその契約の効力が発生した時(基通1の3・1の4共-8)ですから、贈与契約を交わした日付において贈与財産が取得されていたことになります。したがって、贈与により取得した1,000万円は、相続開始前3年以内に贈与により取得した財産として相続税の課税価格に加算します。
ステップ4 相続税申告書の記載
贈与の履行の債務は、通常は受贈者である相続人が相続します。そうすると、相続人は自分に対する債務を自分が相続することになり分かり難くなります。
①相続開始時点では贈与の債務は履行されてませんから、相続税の申告書には預金1,000万円と贈与の履行の債務1,000万円とが両建てされます。預金と債務とは同額ですから相殺されて純資産価額に影響を及ぼしません(相続開始前3年以内の贈与財産の加算により、課税価格は1,000万円増加します)。
②遺産分割が確定すると1,000万円の預金は相続人の名義になるため、この段階では相続人は預金1,000万円と自分に対する債務1,000万円とを有することになります。
③さらに贈与の履行として、相続人は自分名義になった預金1,000万円をもって、自分に対する債務1,000万円を弁済します。したがって、実際は②の段階で預金の名義を被相続人から相続人に変更すれば足り、それ以外の特別な処理は要しません。