相続税の申告と対策
Q.1
夫が死亡して5,000万円の生命保険金を受取りました。
この保険金には相続税がかかるのでしょうか。法定相続人は私のほか子供2人です。
A
ご主人が、ご自身を被保険者とする生命保険に加入して保険料をお支払いになっていた場合、ご主人が亡くなったためにあなたがお受取になった生命保険金には、相続税がかかります。
生命保険金は、ご主人がお亡くなりになる前からご主人と保険会社との契約で受取人が決まっていたものですから、不動産や預金などのような通常の相続財産とは性質が異なります。ところが相続税法では、生命保険金も、被相続人の死亡によって受け取るものである以上、相続財産とみなして相続税の課税対象としているのです。
しかし、生命保険金は、遺族の生活資金として使われたり、相続税の納税に充てられたりする場合がありますから、相続税法では、受け取った保険金を丸々課税の対象とはしないで、一定の金額を非課税としています。非課税とされるのは、次の算式で計算された金額です。
非課税金額 =
500万円 × 法定相続人の数
*法定相続人というのは、
仮に相続を放棄した人がいても、
その放棄がなかったものとした場合の
相続人を言います。
ご質問のケースでは法定相続人は妻と子供2人の合計3人ですから、相続税が課税される金額は次のようになります。
5,000万円 |
−
|
500万円×3人 |
=
|
3,500万円 課税される金額 |
ところで、生命保険金は上記のように遺族の生活資金や納税資金に充てることができますが、相続対策として、より有効に使う方法もあります。
例えば、遺言がない場合、財産を相続できるのは法定相続人だけになりますが、法定相続人でなくても自分のために献身的に尽くしてくれた人などに財産を遺してあげたい場合があります。このような場合、その人を受取人にした生命保険に入っておくと、その人は保険金を受取ることによって、遺言で財産をもらったのと同じ効果を得ることができます。
このように、保険は単に遺族の補償ばかりでなく、幅の広い相続対策のひとつとして考えることができるのです。
Q.2
長年つれそった妻に、住んでいる土地と建物を贈与したいと思います。
このような場合、贈与税で有利な扱いがあると聞きました。具体的には、どのような制度なのでしょうか。
A
長年つきそわれた奥様にお住まいの土地と建物を生前に贈与しておくと、将来の相続のときに、贈与した財産が相続税の課税の対象にならなくて済むなどのメリットがあります。
ご質問の「贈与税で有利な扱い」というのは、具体的には、一定の条件を満たせば、奥様に贈与した居住用不動産の価格から、2,000万円を差しいて贈与税の申告ができるという制度を利用することです。その年に奥様に贈与した財産が居住用不動産だけの場合には、この2,000万円に贈与税の基礎控除110万円を加えた合計2,110万円を、贈与税の課税価格から差し引くことができます。
この制度は、「贈与税の配偶者控除」と言われ、いわば、国が認めた「糟糠の妻」へのプレゼントと考えて良いでしょう。
ところで、この制度の適用を受けるためには、次のようないくつかの条件があります。
この制度は、婚姻期間の長い夫婦間の贈与に比較的多く利用されていますが、同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか利用できません。また、夫から妻への贈与ばかりでなく、逆に妻から夫への贈与についても適用があります。
なお、居住用不動産そのものの贈与だけでなく、居住用不動産を買うための金銭の贈与についてもこの制度の適用を受けることができます。
一つ注意しなければならないことは、2,000万円を超える居住用不動産を、贈与税が丁度0円になるように持分を贈与する場合です。この場合は、まず居住用不動産の評価額を計算して、その結果を受けて、贈与する持分の割合を逆算して決めることになります。
これは実務的にもよく行われる方法ですが、税金の計算をする税理士と、登記申請をする司法書士とがよく連携していないと、結果として余計な税金を払ったり、逆に「税金が0円でももっと贈与できたのに」などという後悔を残すことにもなりかねません。税理士と司法書士とが互いにコミュニケーションが取れるように、一つのテーブルで話し合うことが大切です。
Q.3
亡くなった父に債務があります。
相続税法上の扱いはどうなるのでしょうか?
A
お父様が亡くなった時に確実にあったと認められる債務は、相続税を計算する上で遺産総額から差引くことができます。
尚、被相続人の死亡した年分の所得税などのように、被相続人の死亡後に相続人が納付しなければならないものがあります。このような税金は被相続人が死亡した時点ではまだ債務として確定していませんが、相続税の計算上、総資産から差引くことができることになっています。
ただし、相続人が期限までに税金を納付できなかったために徴収されることになった延滞税や加算税などは、相続人の責任で納付するものですから、遺産総額から差引くことはできません。
また、被相続人がアパートを経営していた場合などは、店子さんから預っている敷金なども債務として遺産総額から差し引くことができます。
葬式費用についても、債務と同じように遺産総額から差引くことができますが、香典返しのための費用や、お墓の購入代などは差引くことができません。
Q.4
夫が生前妻の名義で積み立てた定期預金があります。
夫が死亡して相続が開始しましたが、この定期預金は相続税の課税対象になるのでしょうか?
A
原則的には、妻の名義になっている定期預金は妻の財産ですから、死亡した夫の相続財産にはなりません。ただし、名義は妻になっていても実質的に夫の財産と認められる場合は、夫の財産として相続税の課税の対象になります。
ご質問の場合、夫が妻に毎年預金を贈与して、妻が贈与税の申告をしているとすれば、その預金は文句なく妻の財産ですから相続税の問題は生じません。逆に、妻の名義になっていても、夫が自分でその預金を管理していたような場合は、名義が妻であっても相続税の課税対象になります。
実際の税務調査の現場では、税務署があらかじめ夫や妻の預金口座の動きを掴んでいることが多く、このような場合は、夫から妻へ預金が移動した理由や、その預金の使い道をはっきりさせておく必要があります。
また、贈与税の基礎控除(年110万円)を利用して、この範囲内で毎年贈与を行い、将来相続が発生した場合の夫の財産を少なくしておく方法もあります。
Q.5
父の死亡前に預金を引き出しておけば相続税は課税されないと聞きましたので、引き出したお金を除外して相続税の申告をしました。問題はありませんか?
A
相続税の課税の対象となる財産は、相続開始の時(被相続人が死亡した時)の財産ですから、死亡前に預金を引き出しておけば、遺産総額をその分だけ少なく申告しても良いように思われるかもしれません。
しかし、死亡前に預金を引き出したとしても、死亡時点では「預金」が「現金」という別の財産に変わっただけで、被相続人の遺産であることに変わりはありません。
仮に、相続税の申告期限までに、その現金をお葬式の費用などに使ってしまった場合でも、相続開始の時に現金として残っていた以上は、やはり被相続人の遺産として相続税の課税の対象になってしまいます。
税務調査では、死亡前に預金が引き出された場合、被相続人の医療や介護にどれだけのお金が使われたか、または被相続人やその親族の生活水準がどの程度だったかなど、引き出された現金が死亡までにどのくらい使われたかが調べられます。
ところで、引き出したお金で生前に墓地や仏壇などを購入しておくことがありますが、この方法ですと、これらの購入のために使われたお金の分だけ、相続財産は確実に減少します。
確かに、この場合でも「預金」が「墓地」などの財産にに変わるだけですから、相続財産は変わっていないように思われます。ところが、墓地や仏壇に課税する事は国民感情から見て好ましくないため、これらの財産は相続税の非課税財産とされているのです。このように、生前に墓地や仏壇を購入しておくことは、賢い相続税対策の一つと言えるでしょう。